

土地活用の方法として、マンションやアパートを建てて貸すことを検討される方は少なくありません。一方で、2025年に新しく着工された貸家は32万4,991戸で、前年より5.0%減り、3年連続の減少となりました。
建てられる数が減っても、入居者が物件を選ぶ目はむしろ厳しくなっています。駅からの距離・広さ・家賃が同じような物件が並ぶなかで、「この建物に住みたい」と思ってもらえるかどうかが、空室の出にくさや家賃の維持に直結する時代です。
以前の記事「長屋と共同住宅の違いとは?」では、共同住宅と長屋の違いや条例など、法規の面を取り上げました。今回は企画とデザインの面から、これからの集合住宅づくりで押さえておきたい5つの視点を整理します。

設計例
これまでの賃貸住宅は、間取りと家賃のバランスで勝負する「横並び」の企画が中心でした。これからは、企画・素材・性能・設備・構造のそれぞれで、選ばれる理由を設計の段階からつくり込むことが求められます。

以下、5つの視点を順に見ていきます。
「誰にでも合う部屋」は、裏を返せば「誰にとっても決め手がない部屋」になりがちです。そこで増えているのが、暮らし方や趣味で入居者を絞り込んだ「コンセプト型賃貸」です。
| タイプ | 想定する入居者 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| ガレージハウス | 車やバイクを大切にしたい人 | シャッターと前面道路からの出入り、換気、床の仕上げと耐荷重、エンジン音や排気が住戸に響かない配置 |
| 土間・アトリエ付き | 自転車・アウトドア・ものづくりが趣味の人 | 汚れに強い土間の仕上げ、水栓や排水、道具を掛けられる壁と収納 |
| ペット共生 | 犬や猫と暮らす人 | 足洗い場、滑りにくく傷に強い床材、住戸間の遮音、共用部の使い方のルール |
| ワークスペース付き | 在宅で仕事をする人 | 扉で区切れる小部屋やコーナー、通信環境、机まわりのコンセントと照明の位置 |
注意したいのは、入居者を絞るほど、対象となる人の数は減るという点です。周辺の駐車場代やペット可物件の数、駅からの距離など、そのエリアの需要と照らし合わせて「尖らせ方」を決めることが大切です。
外観は、物件情報サイトの写真で入居者が最初に目にする「広告」でもあります。標準仕様の外壁ではなく、時間とともに味わいが増す素材を外観や共用部のポイントに使うと、写真の一枚目から印象が変わります。
| 素材 | 魅力 | 気を付けたい点 |
|---|---|---|
| 焼杉板 | 深い黒と浮き出た木目。落ち着いた陰影のある外観になる | 表面の炭が手や服につくことがある。地域の防火規制に合う仕様かの確認が必要 |
| 杉板型枠コンクリート | 杉板の木目がコンクリートに写り、硬さとやわらかさが同居する | 型枠や打設の精度で仕上がりが大きく変わる。補修跡が目立ちやすい |
| コールテン鋼 | 表面の錆が保護層となり、年月とともに色が深まる | 錆が安定するまでは流れ錆が出るため、下の床や壁を汚さない納まりにする |
| 左官(塗り壁) | 手仕事ならではのやわらかな陰影 | 下地や目地の工夫によるひび割れ対策、雨だれ汚れへの配慮 |
素材選びで大切なのは、経年変化を「劣化」ではなく「味」として受け止められるか、そして将来の修繕費まで含めて計画するかです。外壁は足場をかけて直す部位なので、張り替えや再塗装の周期と費用を、収支計画の段階で見込んでおくと安心です。
2025年4月から、すべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務付けられました。さらに2030年度までに、省エネ基準はZEH(ゼッチ)レベルへ引き上げられる予定です。賃貸住宅も例外ではありません。
省エネ性能は、外観や間取りとも深く関わります。窓の大きさや向き、庇の出、断熱材の厚みは、ファサードの表情や住戸の内法寸法に影響します。特に狭小地では、断熱の厚み分だけ室内が狭くなることもあるため、間取りと断熱・窓の仕様は早い段階で一緒に決めるのが基本です。
ZEH-Mは、集合住宅版のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。断熱性能を高め、高効率な設備で使うエネルギーを減らし、太陽光発電などでエネルギーをつくることで、建物で消費するエネルギーの収支をゼロに近づけます。
集合住宅は屋根の面積に対して住戸数が多く、太陽光だけで全住戸の消費をまかなうのが難しいため、達成度に応じて「ZEH-M」「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」「ZEH-M Oriented」の段階が設けられています。最も基本となる「ZEH-M Oriented」は、高い断熱性能と省エネ設備によって、太陽光発電なしでも一定以上の省エネを達成する水準です。
全国賃貸住宅新聞が毎年まとめている入居者に人気の設備ランキング(2025年版)では、単身者向けの「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても入居が決まる」の1位が高速インターネット(1Gbps以上)無料でした。10年間首位だった「インターネット無料」は2位に下がっており、「つながる」だけでなく「速さ」が問われる段階に入っています。
通信設備は、建物が完成してから増強しようとすると、配管ルートや機器の置き場所が足りずに苦労しがちです。設計の段階で次のような「毎日使う場所」まで考えておくことが、暮らしやすさと評価の差になります。
近年の建築基準法の改正では、大規模建築物の木造化の促進や、階数に応じて求められる耐火性能の基準の合理化、建物の一部を木造にしやすくする見直しなどが行われました。
集合住宅でも、木造3階建てのアパートや、低層部をRC造・上階を木造とするような構成など、構造の組み合わせ方の選択肢が広がっています。木造は建物が軽く、工期やコストの面で検討の余地がある一方、住戸間の遮音や防火の設計がより重要になります。構造の種類は、法規・コスト・工期・遮音性能を並べて比較したうえで選ぶのがおすすめです。
なお、木造の構造に関するルールの変化については、「壁量計算の改正で何が変わる?2026年4月以降の木造住宅と狭小住宅への影響」で解説しています。
5つの視点をすべて盛り込もうとすると、工事費も膨らみます。特に敷地が小さい場合は、「全部をそこそこ」ではなく「ひとつを尖らせる」ほうが、入居者の記憶に残る建物になります。たとえば、1階をガレージにして外観にコールテン鋼を効かせる、共用部は最小限にして住戸の断熱と通信に予算を回す、といった配分です。
また、狭小地では「共同住宅」として計画するか「長屋」として計画するかで、建てられる戸数や必要な空地が変わります。法規の面は、前述の長屋と共同住宅の違いの記事もあわせてご覧ください。
当事務所では、狭小地の共同住宅・長屋やガレージハウスなど、敷地の条件と入居者像に合わせた集合住宅の企画・設計を行っています。計画の初期からCGや模型等で外観や素材感を立体的に確認し、法規のチェックとあわせて「選ばれる理由」のある建物をご提案しています。
土地活用として賃貸住宅をご検討中の方、既存のアパート・マンションの建て替えやリノベーションをお考えの方は、お気軽にご相談ください。
参考:全国賃貸住宅新聞「入居者に人気の設備ランキング」(2025年10月20日号、NTT東日本 法人向けコラムでの紹介による)、2025年の新設住宅着工に関する報道(データ・マックス)、滋賀県「省エネ住宅の普及」、愛知県 建築基準法改正の概要。制度の内容や補助の条件は変更される可能性があります。計画の際は最新の情報をご確認ください。
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